みんなオイルフィニッシュが大好きだと思うけどオイルって何が良いか悩むよね。
今回いろんなオイルの比較をしようと思ったんだけど、この記事では安全性だけに終始することになった。
それほどに安全性を一概に語ることはできず、見通しの効かない領域だ。
と言うのも僕は建築内装の設計に携わる以上、お客さんから塗料について聞かれることは少なからずある。
聞かれるたびに調べるまくるわけだけど、はっきりした回答を提示できたことはない。というかそんなものは存在しないと知らされるばかり。
でも今回はもっともっと掘り下げて、塗料の人体安全性を考える上でなるべく主観を取り除き、フェアな評価を行うために、一定の根拠に基づいた基準を引っ張り出して考察していきたい。
- 第1に食器への使用をメーカーが認めているか
- 第2に各種工業規格への適合の有無
- 第3に有機溶剤はどのようなものか
- 第4に全ての成分の開示を行なっているか
この辺を基準に説明していきたい。
Contents
安全とは
塗料の安全性が最も問われるのは食器への使用だと思う。近い水準で子供用のおもちゃとかも。
そんな塗料は飲んでも大丈夫なのかというと、もちろん飲んだらヤバいからダメゼッタイ。
オスモやリボスだって醤油だってコーヒーだって飲んだら死ぬ、というと極論だけどなんだって一定量飲めば死ぬ。水ですらも。
無条件に安全なものなんてこの世には存在せず、安全な使い方のみが存在すると考えるべきだと思う。
逆に言えば安全な使い方が確立されている塗料のみが国家や国家群の基準に基づき市場に出回っているはずなので、使い方を守る以上は市販塗料は安全であるとも言える。
何が言いたいかというと「どの塗料は危険、どの塗料は安全」という白黒つけた認識の仕方が一番危険だということ。
この前提に基づき各塗料の安全性について書いていく。
自然由来・環境対応=人体への安全性か?
言うまでもなく成立しないんだけどこれらの「言葉」はどうも同系統のものと認識されているように思われる。
そもそも日本国内では自然塗料を名乗るためのルールも存在しない。
まず環境対応。自然環境に無害だからと言って人体に無害であるとはとても言えない。
なのでこれは切り離そう、もちろん地球人として生きる以上意識するべきではあるんだけどね。
では自然由来は?もちろんその辺のキノコやフグを食ったら簡単に死ねるのはご存知の通り。
木工用オイルには本当に色々なものが使われるけど、例としてクルミ油・オレンジオイル・桐油なんかをあげてみる。
クルミとオレンジは食用だけど、ナッツや柑橘類のアレルギーを持つ人が触ったり舐めたりすると、かぶれたり痒くなったりするだろうし、アナフィラキシー症状なんかの重篤な症状を引き起こす可能性も無いとは言えない。
「アレルギーを起こしにくい」ってのも近年、建設業全体でも結構大きなテーマとして取り扱われてると思う。
あと桐油なんかは撥水性に優れるんだけどそもそも毒性のある脂肪酸が含まれているので、食器なんかに適しているとは言えない。
「目に入っちゃったけど自然塗料だから大丈夫」なんてのはちゃんちゃらおかしい。
そんなこんなで最も無難な木工オイルとして、食用としても実績のあるアマニ油さんが一番多く使われるわけだけど、原液で買ってきた場合はどうしても薄める必要がある。
セルフで薄める溶剤はテレピン油がよく使われる。
テレピン油とは松ヤニを蒸留生成して作った精油で、英語で言えばエッセンシャルオイル(Essential oil)。バリバリのオーガニックだ。
表記の揺らぎが多くテレピン・テルペン・ターペンタインと呼ばれることも多い。
オーガニックのエッセンシャルオイルといえば安全に聞こえるけど有機溶剤とも呼べる。
いきなり危険な雰囲気がでたな。不思議だね。
有機溶剤は危険?
じゃあテレピン油も危険なの?と言う問いについては、厚労省指定の有機溶剤中毒予防規則の3類に分類されている現実がある。
この「有機則」は揮発蒸気の吸引毒性(皮膚吸収含む)に基づいて1〜3類まであって、1類が最も危険。漫画によく出てくるクロロホルムなんかが名を連ねてて、2類にはいわゆるシンナー(昔)の主成分の芳香族炭化水素であるトルエンやキシレンなどが。
テレピン油の属する3類には身近なガソリンや、木工オイルによく使われるミネラルスピリッツ(ホワイトスピリッツ)なんかも属している。
とはいえ「危険だ!」と言って遠ざけていてはなにもできない、どんな塗料も安全な使い方が存在する。
テレピン油に関しては少なくともその他の法律による規制はかかってないし、油絵の薄め液なんかとしても民間に多く流通しており少なくとも危険なものと認識されてはいないんじゃなかろうか。
そして有機溶剤は主剤のオイルを薄めて塗りやすくするためだけのもので、塗料の完全乾燥とはこれらが全て蒸発した状態を指すため、基本的には塗装面に残らず大気中に霧散消滅してしまう物質だ。
基本的にはと書いたのは、環境によっては長期に渡って放散されることもあり、いわゆるシックハウス症候群の原因となっていた時代がある。
ただし主な原因物質となっていたホルムアルデヒドを始めそのような物質はほとんどが規制されており、今回紹介する塗料には原因物質は含まれていない。
フォースター(☆☆☆☆)という有名な適合基準が存在するけど、オイルステインを始めそもそも告示対象外であることも多いのでさほど気にするものでは無い。
厳密には完全な自然塗料(例えばドイツで明確に定義された自然塗料)であっても微量のホルムアルデヒドは発生する。
あらゆる物質は分量次第で毒にも薬にもなるということ。
どの溶剤もSDSで表記義務のある成分なので気になる人は検索してみよう。
(SDSとは化学物質の危険有害性情報を記載した文書で塗料には製品ごとに存在して求められたら提出義務がある。)
しかし安全は先に述べた通り、正しい使い方を行うことで確保するもの。市販されているものは大体換気しながら使えばよし。
突き詰めればタバコの副流煙や道路の排ガスに気を使った方が良いとも言える。
各メーカーの溶剤の違い
溶剤は上で述べたように揮発性のため、使用者よりも作業者への安全性の評価指針と言える。
同じ名前であっても完全に同一のものではない。
オスモ・ワトコ - ミネラルスピリット(ホワイトスピリット)
石油精製物質でミネラルオイルという名称で化粧品などにも用いられることもある透明な液体。
一般に様々な不純物を含み蒸留の度合いによって、化粧品や医薬品に使われるレベルのものもあれば、上にあげた危険な芳香族炭化水素をバリバリ含むものもあったりとピンキリの模様。
芳香族というのはとりあえずベンゼン・キシレン・トルエンなんかのヤバめの化学物質くらいの解釈で良い。
これを使用しているのはオスモとワトコ。
オスモの成分表記にあるホワイトスピリットとは、芳香族炭化水素を取り除きドイツ薬局方第10巻の純度規定に適合したものと記載がある。
つまりウチのは医薬品レベルと言いたいわけだ。
ワトコで使用されているものというと特に言及がなく、SDSを確認したところ芳香族は限りなく除去されているが表示義務のある成分はオスモより結構多い。
とはいえ未だにトルエン入ってるブライワックスオリジナルなんかと比べれば、比較的安全な物質と言えるんじゃないかと思うね。
リボス・エシャ - イソアリファーテ(イソパラフィン)
こちらはリボスが主溶剤としているもので、上にあげたミネラルスピリット同様に石油由来の物質だ。
というかミネラルスピリットに含まれる成分の一つとも言える。
リボスはかつて自然素材のリモネンやテレピン油を主溶剤として使っていたが、安全性の追求のためこちらに切り替えたとしている。(リモネンはアレルギー要因にならない程度に入ってる)
このイソアリファーテはアメリカFDA(アメリカ食品医薬品局)の基準に適合し野菜洗浄、果物などのコーティングや医薬化粧品に使われているものとのこと。
リボスの主張ではテレピン油は、芳香族炭化水素と同じくらいの危険性を持つ可能性があるとのこと。
Eshaでもイソパラフィンが使用されているが、安全性については根拠を掲げた特別な主張はなかった。
テレピン油
上でも説明したけど完全自然塗料を名乗るにはかならずコイツが出てくる。
石油製品を拒否したプラネットカラーでもやはりこれが使われており、ただのテレピンオイルではなく、ブラジルや地中海沿岸に生息する特定の松から抽出されたもので、アレルギー成分であるデルタ3カレンの含有量が、ドイツで製薬に用いる場合の規制で0.5%未満とされているところを自社基準値で0.005%としているとのこと。
それでも症状が出る極度のアレルギー体質の人には無溶剤タイプも販売している親切っぷり。SDSを見ても(ちょっと古かったけど)リボスやオスモとならぶ優等生っぷり。
結局のところ
これらの成分を深く掘り下げたところで人体にどのような害があるかなんてのはわからない。
そもそも人体への影響のデータを意図的に収集するのは文字通り人体実験でもやらない限り不可能だし、それぞれのメーカーの掲げる根拠を参考にするしかない。
データがない以上は、専門家だって絶対的なことはわからない。
我々DIYerにできることは、換気を良く行い、火気厳禁で手袋をはめて作業をすることだけ。
食器への使用を認めているか
結論から言うとHPで堂々と使用可能と標榜しているのは以下の3社のみ。
- オスモ
- リボス
- プラネットカラー
オスモは以下の通り
リボスは
プラネットカラーは
Eshaとワトコついてはこの辺の記載が見当たらなかったので問い合わせてみた。
Eshaは
「お勧めしていません。」(なるべく口頭ママ)
ワトコは
「ダメですね。」(なるべく口頭ママ)
とのこと。
誤解を避けるためになるべく電話口の言葉そのままで記述してるけど、個人的には使うなの解釈で良いと判断した。
各種工業規格の適合の有無
無数にあるんだけど、メーカーが謳い文句にしがちで、人体に最も近い部分をカバーしていると思われる3つの規格をひっぱりだしてみる。
ただしこの規格は必ずしも、直接口に含むような食器類への使用を認めるものではない。
EU統一規格 EN 71 part3 幼児用の木材玩具として
6歳以下の小児用のおもちゃの内、ぺろぺろしたり呑み込んだりする可能性のある部品について規定されているとのこと。
具体的には重金属類17元素が、健康に影響を与えるレベルで含まれているか否かを調べる溶出試験で、これに相当する日本の規格は2002年制定のSTマーク基準というものがあり、こちらは重金属8元素となっており、EN規格の方が厳しいように思える。
オスモ、リボス、プラネットカラーなんかのドイツ各社がこの辺の規格に適合している。
イギリスのワトコは?と思うかもしれないが、向こうで売っているもの適合していて、日本で売っているものは適合していない。代理店さんいわく製造も向こうでやってるんだけどEU用と日本用では成分が違うとのこと。
あれ日本の安全性って()
ドイツ規格 DIN 53 160 汗・唾液に対する色彩堅牢性
DINとはドイツの規格でEU統一規格であるEN規格をベースとしながらも、盲点となる部分をカバーもしくはさらに厳しく独自の基準を儲けていると考えれば良い。
内容は結構調べたんだけど表題以上の内容が全く出てこなかった、がんばってドイツ語ページにも挑んだけど肝心の内容が有料だったりで諦めた。
これに適合していると謳うメーカーはオスモ、リボス、プラネットカラーそして。当然っちゃ当然だけど全部ドイツのメーカーだ。
とはいえワトコも向こうで売ってるものは対応しているらしい。あれ日本の安全性って()
明確な出典のない話になるがドイツの健康と環境への意識高い系っぷりは世界に知られていて、基準の厳しさも世界トップクラスとされている。
健康が売りの工務店にも多く採用されていて、海外製品かつ高価でありながらここまで日本市場に出回ってる事実は、そのまんま市場の評価と言える。
日本の食品衛生法・厚生省告示第 370 号(20号・257号)
日本の塗料メーカーはこちらを安全性の根拠として掲げていることが多い。(他にもフォースターとかいろいろあるけど割愛)
これに適合しているとするのはオスモ、Esha。
EN規格と似たような指定有害物質の溶出試験(水温 60℃で30分)なんかもあるようだが、どうも判定対象が合成樹脂に限定されるようで、それを含まないものの規格基準は国内には存在しない模様。
詳しくは下のリボス代理店さんのリリースを見てほしい。
ならばオスモなんかはどうなんだろ。
この辺は謎のままだけど上記の通り「安全性を知る上での一つの指標に過ぎない」と考えるべきだろうね。
全ての成分の開示
全ての成分の開示を行なっているメーカーはリボスとプラネットカラーのみ。
この辺の開示は製法の漏洩にもつながるだろうから、法律で規定されている成分以外の開示義務はない。
健康を謳うメーカーの潔白照明みたいなものだろうか、企業姿勢
【総まとめ】各メーカー塗料の比較
というわけで今回の指標に基づいてまとめリストにしてみようと思う。
リストにしているのは各メーカーの製品で木工家具のオイルフィニッシュに向いていると思われる製品。
○の数が"つよさ"ってわけじゃないんだけどまあ参考にして欲しい。
オスモ エクストラクリアー ノーマルクリアー フロアークリアー | リボス アルドボス メルドス クノス | ワトコ ワトコオイル | Esha クリアオイル ワックスオイル クラフトオイル クリアオイルラピッド | プラネットカラー グロスクリアオイル | |
---|---|---|---|---|---|
食器への使用 | ○ | ○ | ○ | ||
EN 71 part3 幼児用の木材玩具 | ○ | ○ | - | ○ | |
DIN 53 160 汗・唾液堅牢性 | ○ | ○ | - | ○ | |
食品衛生法 厚生省告示第 370 号 | ○ | ○ | |||
全成分の開示 | ○ | ○ | |||
溶剤 | ミネラルスピリット (表記名ホワイトスピリット) ドイツ薬局方純度規定に適合 | イソパラフィン (表記名イソファリアーテ) アメリカFDA基準適合 | ミネラルスピリット | イソパラフィン | テレピン油 (表記名バルサムテレピンオイル) ドイツ製薬基準の低アレルギー品 |
ワトコが可哀想だけど自分自身針葉樹にはメインで塗ってるしすごくよく使う。
中でもワトコリアレックスという商品は無溶剤の塗料でSDSにおいて記載義務のある成分も含まれない非常に優等生な塗料だ。まあ高いんだけど。
その安全性は本当に必要か?
今回引き合いに出したうちのリボス・オスモ・プラネットカラーは食品レベルで高い安全性を誇ると言っていいかもしれない。
食器にオイルを塗りたいならば是非これらの塗料をオススメしたい。子供部屋の床なんかにも最適だろう。
じゃあ靴箱を作ったときは?椅子を作った時は?
ちびっこがかじる可能性があるだとか、売り物だから安全性をPRしたいだとか、その辺の環境や用途で選択すべきじゃないかな。
メーカーの求めた安全性は見事にコストで表現されている。
僕はリボスをよく使う。
でもワトコもよく使う。
そんな感じだ。
この内容とは全く無関係だけど、僕は幼少期に公園の砂場で猫のうんこを食べたらしいけど今も元気に生きてる(と思われる)。
というわけで以下ではそれぞれの塗料を簡単に紹介しておく。
オスモ (独)
言わずと知れた自然健康塗料メーカーで日本でも超有名だと思う。
自然由来というブランドにとらわれず、高い安全性を目指して切磋琢磨する優等生。
日本の建設業界隈でも大人気。
だが高い。
リボス (独)
「たとえ自然由来であっても健康に害のあるものは使わない」
アイデンティティとしてはオスモと近しいものを感じる。
こちらも建設業に大人気だけど家具分野でも結構使われているイメージ。
種類はたくさんあるけど、アルドボスだけ使ってれば良いとも言える。非常に使いやすくて個人的には主力塗料メーカー。
オスモより少し安く買える。
ワトコ ワトコオイル(英)
リボスやオスモのような安全性を追求したメーカーと比較するのは少しかわいそう。
一つだけ言えるのは、安く、手に入りやすく、非常に使いやすい、DIYに最適な塗料だということ。
Esha(日)
ターナー色彩が販売するEshaシリーズ。
EU基準には及ばなかったとしても日本の基準には十分適合してるし、安全面でもそれなりに評価できると思う。
ワックスオイルなんかは価格も安いので非常に優秀。クラフトオイルはちょっと特殊でめっちゃ水に強い。
プラネットカラー(日独?)
ドイツでも「自然塗料」を名乗る基準を満たしている本物のオーガニック塗料。
自然=安全とは全く思わなし、自然の概念も人間が線引きしたもの。
しかしそれに価値を見出し、その精神性が人の拠り所なるのであれば、それは一つの信仰であり、尊重すべきものだと僕は思う。
アレルギー対策も上に書いたように徹底されている。
もちろんめっちゃ高い。
動画解説
ちなみにこの記事は動画での解説も行なっている。かなり気合の入った解説だけどあまり見てもらえなくて悲しい。
本当の価格
安全なオイルは高い?実際のところ売値だけ見ても本当の価格はわからない。
というのも同じ容量でも塗れる面積は違うから。
その辺を「平米単価」を算出して下の記事にまとめてあるのでご参考までに。
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