スライドレールは初めての人でも難しくない、吊り桟形式なんかよりも簡単だ。
まず計算が簡単で、次に作り方の面でも簡単だ。
幅の設定はシビアだけど修正できればなんの問題もない、その方法も解説する。
今回はベーシックな横付けスライドレールを初めての人がなるべく簡単に使いこなす方法を書いていく。
種類はやまほどあれど、この基本形を押さえていればなんでも使える。
順序としては
- 基本的な構造
- あなたにベストなスライドレール
- 単純化した設計の考え
- 実際の取り付け
- 誤差の修正方法
- おまけとして前板の取り付け
みたいな感じ。
Contents
基本的な構造と種類
これがスライドレール。

このような姿をしていて、文字通りスライドして引出せる。
サイドの樹脂パーツを押し込んでさらに引くと、丸ごと引き抜けてインナー側とアウター側の2つのパーツに分かれる。
なのでそれぞれを外箱と内箱(引出し)に取り付けてガッチャンコすれば完成というわけ。
スライドレールが優れる点としてベアリング(もしくはローラー)を使うという構造上、実家のタンスよりもスライドの滑らかさに優れる。
ピラミッドを作る時に石を引きずって運ぶのか、台車に載せて運ぶのか、どっちが楽かイメージするとよい。
重量物であるほどその差は大きくなり、基本的に耐荷重および耐久力にも優れる。
さらに引き出しの奥行き分全て引き出すことも可能な上に、引き出しすぎて落ちることもない。
例えば、これらを兼ね備えた長さ450mmのスライドレールが左右セットで880円(税込)。安くない?
木桟でやる利点はコストが安くなるのはもちろん、吊り桟なんかだと腕の見せ所にもなるが、機能面ではやはり多くの点でスライドレールに軍配が上がる。
以下はまったく使ったことがない人に向けて、イメージしてもらえるためのTips
- 引き出しの端から端まで引き出せて使い切れる(ものが多い)
- ワンタッチで簡単に引き抜ける
- 精密な構造の割に意外と安い
- 一般的に左右2本のセット価格
- しかし左右の違いが無いものがほとんど
- ホームセンターで買うと割高
- 数セット買うときはAmazonより楽天の方が安い
- 耐荷重は長いほど低くなり、大体450mmくらいまでが一番強い。
- 取り付け幅はシビアだけどミスっても調整は簡単
- 内箱が小さすぎた時の方が調整しやすい
あなたにベストなスライドレール
スライドレールの種類はあまりにも多い。多すぎる。
あなたの悩みを少なくするため、ご存知スガツネ工業(LAMP)の安価かつ機能に優れるDIY向きのベーシックなものに絞って説明する。(実質二つ)
Q1- 重たいものを入れるのか?
大量の食器類や米袋やペットボトルなどを入れて20kgとか余裕で超えそうな場合
→4518シリーズ(最大耐荷重45kgfの三段引きベアリングタイプ)
そうでは無い場合
→3618シリーズ(最大耐荷重25kgfの三段引きベアリングタイプ)
これで決まり。
でももう一つだけ選択肢を用意した。
とにかくお金がない
そんなあなたに
→702シリーズ(最大耐荷重20kgfの2段引きローラータイプ)
ベアリングタイプかローラーか?
スライドレールにはベアリングタイプとローラータイプの2種類がある。
ローラータイプは安価ではあるけど、引き抜く時に上に持ち上げる必要があったり、動作の安定性でもどうしてもベアリングタイプに劣る。
引き出し感は「カラカラ」と言った感じで、ベアリングタイプは「ヌルッ」と言った感じで気分が結構違う。
コストの差は大きいが、安っぽくてガタも大きくてめっちゃ嫌い。これは個人的偏見だ。
4518シリーズ

安価で耐荷重も高いDIY的には最高位のスライドレール。
3段引きで長さ分の完全スライド可能。
L450mmの場合
・参考価格970円(税込 左右セット)
・耐荷重45kgf
実は3618シリーズに比べ、アウターレールの穴の位置なんかが見やすくてその辺でも上回っている。
45kgfという耐荷重は思ってるよりかなり強い。
さらにワンランク上の耐荷重ものを探すと、知る限り80kgf程度のものが当てはまるけど、重量用と銘打っもので、安くても4倍以上の価格になるのでDIY的じゃ無い。
なのでこの4518シリーズを最高位としておく。
3618シリーズ

DIYのベーシックスライドレール。
こちらも3段引きで長さ分の完全スライド可能。
L450mmの場合
・参考価格880円(税込 左右セット)
・耐荷重25kgf
作業場の収納なんかたくさん作る引き出しにはちょうどいい、耐荷重も個人的に問題に感じたことはない。
上位の4518と比べてあまり価格差を感じないという人は細かい取り付け性でも優れるそちらを使えば良い。
702シリーズ

とにかくケチりたい時のスライドレール。
2段引きで3/4程度のスライドのため、完全に引き出せないタイプで、L450mmなら90mmの引き残しが発生する。
かつローラータイプなのでベアリングと比べて安定感が大きく劣る。
L450mmの場合
・参考価格520円(税込 左右セット)
・耐荷重20kgf
価格は結構違うが個人的には選ばない。
ちなみにベアリングタイプの2段引きは、3段引きよりも高かったりするので選択肢に入らない。
安っぽいけどその辺が許せれば財布に優しいシリーズ。
3種の比較
リストにしてみるとこんな感じ。
価格や耐荷重などはL450mmでの数値で長さによって変わる点に注意。
4518 | 3618 | 702 | |
---|---|---|---|
参考価格 | 970円 | 880円 | 520円 |
耐荷重 | 45kgf | 25kgf | 20kgf |
引出し量 | 450mm | 450mm | 360mm |
タイプ | ベアリング | ベアリング | ローラー |
長さラインナップ | 200-700mm | 150-700mm | 300-550mm |
長さのラインナップを見てもローラータイプの702は微妙と言いたい。
耐荷重の考え方kgfとN
kgfとかNという単位は学校や、資格関係で勉強したけど大体忘れた。
キログラムにfがついてkgfだけどこのfは「Force - 力」つまり力の単位。
とはいえ45kgfはそのまま45kgまでいけるという解釈をしてても酷い目に遭う事は無いと思う。
この耐荷重は引き出したレールのセンターでの値なので、箱の手前にそれを超える力を集中させるとこれを超える事になる。(もちろん箱本体の重量も含まれる。)
さらに45kgの人でも体重計の上でジャンプすると一瞬70kgとかになったりするけど、それはまさに70kgfの力が加わるということなので、そんな力を加えるなということ。
そしてもちろん取り付け方を誤ってもこの値は低下するし、1日開閉回数なんかによっても変動するとされている。
DIYの範疇であれば、荷重の偏りや瞬間的な力が加わることも想定して、耐荷重よりちょっと少なめの物量で想定しておけばそう問題は起こらないんじゃないかと思う。
じゃあこれを超えるとどうなるのか?
メーカーの耐荷重は破壊荷重とは異なるので、いきなりへし折れたりしないだろうけど、スライドの調子が悪くなったり劣化が早まって、最終的には故障につながることが予想される。
まあ結構ヘビーに使ってるけど、今の所壊したことはない。
(一応kgfは国際単位系(SI)に属さないので公式とは言えない。SIではN(ニュートン)が力の単位だけど、一般の地球人にはkgfの方が使いやすいのでメーカーカタログにも併記されている)
単純化した設計の考え
引き出しを使った家具のサイズはは「入れるもの」と「置く場所の広さ」で決まってくるが優先順位は時と場合、ここではスライドレールの扱いに注目して、簡略化した図を用いて寸法の整理をしたい。
横幅の決め方
スライドレールの厚みの把握はもちろん必要だ。
ベアリングタイプのベーシックな寸法は12.7mm。上で紹介した3618と4518シリーズもこれ。(702は12.5mm)
インチの国から来た寸法でこれは13mmとして設計すれば良い。それが左右に2本ある。なので、
内箱の外寸+26mm=外箱の内寸

まずはこんな感じで気楽に考えれば良い。
実際25.4mmなので0.6mmスキマができるけど、ギチギチになるより修正がしやすい。修正方法は後の項目で解説する。
かといってギチギチになったとしても、トリマがあればストレートガイドで非常にスピーディーに調整が効くしさほど問題はないため、コンマ単位で攻めても問題はないと思う。
12.7mm以外のものもたくさんあるので違うのを使うなら自分で確認しよう。
深さの決め方
深さを決めたい時、頭がこんがらがることがあると思うのでヒントになりそうな情報を少し書いてみたい。
先に引き出しの方式なんて無限にあるのでまず前提条件を決める。
- 全ての内箱の有効寸法(実際にものが入る大きさ)が同じ
- 前板は後で取り付ける方式とする。
こんな感じ。

ます深さの有効寸法がいくら欲しいかを決める。
100mmのものを入れたいとしよう。
すると下のように足し算すれば取り付けのピッチが決まる。

上は最も簡単な方法だけど、棚口桟が入る場合も多い。
その場合も下のように計算できる。

この取り付けピッチはそのまま前板のサイズになる。
しかしすきま(クリアランス)が必要なので例えば2mm小さいサイズで作る。
すると下の図のようにそのまま2mmのスキマができる。

深さなど高さ方向のの考え方は一旦この辺りにしてレールの取り付け位置の話をする。
内箱のスライドレール取り付け位置
これを決めるために、内箱の高さを決めたい。
今までの図を見て、内箱の高さはピッチよりも結構小さいのがなんとなくわかると思う。
これは家具の種類や美観によるけど、小さいほど干渉もしにくくなるし、材料の節約にもつながるし軽量化にもつながるし、基本的にいいことずくめ。
中に入れるものが横にこぼれる可能性が無ければ、小さいほど良いと僕は思う。
というわけで80mmに設定して、レールの取り付け位置は図のようにする。

まず箱の下端から測ってることに注目して欲しい。
下を基準にするいうのは引出し作りのセオリーだと考えて良い。
続いてレール取り付けの位置自体は、僕は大体真ん中かやや下につけることが多い。
これは人によって結構違うと思うけど、メーカーの取り付け例を見ても真ん中から下の場合が多いのでそれを参考にしている。
あと、この時スライドレール本体の高さ寸法は全く考えなくて良くて、ただの線だと考えるのが一つのコツだと思う。
スライドレールはビス留めの位置が、インナーもアウターも一直線状に揃うように設計されているので設計上はただの線だ。
さらに、引き出しの高さがそれぞれ違う場合でも、40mmなら40mmで全て同じに設計するのもコツだと思う。
底を基準に水平な線を引くので、毛引きやマーキングゲージで寸法を設定したらそのままで全部墨付けできた方が誤差が出にくいからだ。
内容が多くなったのでリストにしておく。
- レール位置は箱の下端からいくらと設定する
- レール位置は大体箱の中心から下側
- レールはただの線と考える
- レール位置は箱のサイズが複数あっても統一する
前板のおさまり方の違い
では外箱の取り付け位置を出すために、組み付けた状態の図を書いてみるんだけど、納まりかたにも色々ある。



これらはすべて有効寸法100mmでピッチ115mmだけど、アウトセットだったりインセットだったりで上段と下段の前板のサイズが変わってくる。
Aのインセットの場合は全てが均等に収まる。
Bのアウトセットの場合、外から見れば上と下だけが大きく見える。アウトセットだと有効寸法と前板の全てを均等にするのは物理的に不可能。
Cの混合の場合は、一番下だけが大きく見える。この場合も全てを均等にするのは不可能。
この辺りをどう捉え、どのように調整するかは自分の設計次第なので何もいうことはないんだけど、考える上でこの図がひとつの参考になればと思う。
初心者の設計にはインセットが一番簡単とも言える。
でも製作はアウトセットの方が前板のサイズが干渉しない分簡単。
外箱のスライドレール取り付け位置
とはいえさっきの図で外箱のレールの位置は確定する。

このようになる。
赤字の寸法を見て貰えば、ここでも箱の下側を基準にしていることがわかる。
115のピッチ寸法だけわかれば作ることはできるが、僕は実際の墨付けをスムーズに計算ミスなく行うためにこのような書き方をする。
最初の寸法が47mmなので、内箱は底から7mm浮くようになる計算だ。
このスキマは荷重によるたわみなんかの対策になり、大きさにもよるけど大体5mm〜10mmなんかで作る場合が多いと思う。
設計の考え方はこんな感じにして、実作業に移っていきたい。
スライドレール実際の取り付け
ここで例に出すのは僕の事務所の道具収納箱。
参考までに図面を書いておく。
前板は完全アウトセットのキャスター付き収納チェスト。


なぜこうなってるのかわからない寸法が色々あるかもしれないけど、これは手持ち材料とか歩留まりとか設置する場所とか色々あってこうなってる。
下のような空きスペースにぴったり収まるように作る。

今回使うのは3618タイプの450mm。
外箱への取り付け
まず前提として、外箱は組み立てる前にレールを取り付けてしまう方が作業効率が良い。
墨付けは設計のところでも話したように、下端から測る。

写真のように直定規一本で全ての寸法を取るのが正確。
完全に平行な板を作ってそれを噛ませながらやってる人もいるけど、それだと用意の手間がすごくかかるし、この方法でも正確に墨付けすれば誤差はコンマミリに以内に収まると思う。
前後の取り付け位置は写真のように当て木などを用意して、前ヅラに合わせる(アウトセットの場合)。

インセットの場合は引っ込めたいだけ引っ込めて、同じく当て木を用意して前で合わせれば良いのでさほど変わらない。
あてがった時に取り付け穴のセンターに墨が見える。この位置ドンピシャにビス留めすれば水平は自動的に取れる。
使うネジは人によると思うけど、僕の場合外箱側には3.5mmの皿タッピングを使う。
メーカーは頭の大きいバインドやトラスネジを推奨しているんだけど、それだと穴の径の違いぶんどうしても動く。
しかし皿タッピングだと円錐型なのでしっかりホールドしてくれる。
その分位置決めは慎重に行う、ビスの微妙な位置でレールの位置が完全に決まるので、穴のセンターを正確に取るためにセンター一発キリなんかを使ったりもするけど、まあ普通の千枚通しなんかでもさほど問題はないと思う。
水平さえ守っていれば、調整しやすい内箱側で微調整すれば良い。
まあ実際のところ多少ずれても納まるっちゃ納まるからDIY的にはそこまで神経質になる必要はないかもしれない。
自信がない人は大きい方の穴にトラスタッピングで留めて調整の余地を残すと良い。
内箱への取り付け
内箱の墨付けも下端を基準にする。
箱のサイズが違えど全て同じ寸法にしているはずなので、毛引きやマーキングゲージを使えば、ほぼ均質な線が引けるはず。

このようにもともと平行が出た定規なんかをあてがって墨付けしても良い。

この場合はもちろん事前に使う定規の幅で設計しておく必要がある。(この定規は35mm)
前後の位置はやはり外箱同様に当て木なんかを使って前に合わせる。

内箱のビス留めはまず縦長の穴を使ってトラスネジなんかで留め、外箱と組み合わせて位置を確認してから丸穴を留めるのが基本。
(でも正直なところ、一発で丸穴に皿ネジを打ち込んでも問題が出たことはない。構造によるけど)
とりあえず引き出しの基本構造が完成したはず。実際に外箱に入るか試そう。
誤差の修正
引き出しを取り付けるときは少しドキドキする。
いざ取り付け他時の結果は主に4パターン。
- スムーズに入る
- 途中でガツッと引っ掛かる感覚があるが押し込んだら入る
- 明らかに狭くて入らない
- 明らかに広くて入らない
1はそのまま合格。
2は微妙だけど押し込むことができれば大体スムーズに動くと思う。それが自分的に許せるものなら合格として構わないと思う。
3と4は引き出しの体を成していないので修正する必要がある。
狭くて入らない場合
まず3の狭くて入らない場合はトリマーを使うと早い。
カタログによるとスライドレールの誤差許容範囲は両方合わせて0.4mm。
でも実際のところもう少し許容値は高い。なので入らない以上はおそらく1mm近くかそれ以上ずれている。
大きめのストレートビットとストレートガイドを取り付けて0.5mm以下のつもりで片方だけ削ってみよう。全く負荷がかからないのでスイスイ削れるから楽。

それでも入らなければもう片方削る。入るまで削ればオッケー。
ただし偏りが生じるので左右均等に削った方が良い。
広くて入らない場合
この場合は何か挟めばいいだけなのでめっちゃ楽。
マスキングテープなんかが手っ取り早いと思う、まあ上に同じく1mm程度ずれている可能性が高いので結構貼らないといけないと思うけど。
(前まで両面テープでやればいいと思ってたけど、動かなくなるからやりにくいかも。今のところこっち側の誤差で入らなかった経験は無い)
前板の取り付け
最後の仕上げなので楽しい作業。
前板は化粧なので内箱とは違う素材で作ることが多く、さらに無垢材なんかを使うことも多い。
なので基本的に取り付けにボンドは使わず、両面テープで仮止め→裏からビス留めで行うことが多い。
ボンドを使うと反りやすくなるし交換できなくなる。
後付けの前板は引き出しを組み込んだ状態で外から見た時均一になるように貼っていく。
ここでもやはり下が基準。
まずは写真のように設定したスキマと同じ厚みのフィラー材を用意する。

これはメラミン化粧板2枚貼り合わせでほぼ2mm。
実作業としてまずは一番下の基準となる前板を両面テープで貼り付ける。

しかし引き出しの前ズラは側板よりコンマ数ミリ凹むので両面テープの圧が効きにくい。
なのでマスキングテープなんかを10枚くらい重ねたものを写真の場所に挟むと引き出しが奥に行きすぎなくて貼りやすい。

そのあとはフィラー材を乗せて上に積み上げるように貼っていくが、両面だけだと前板の重みでずれてくるので一枚一枚ビス留めしてから積んでいく方がよい。


というわけで形になった。

あとは好きな取っ手をつければ完成。
もしくは手掛けを掘ってもいいし、応用次第。
動画解説
めっちゃ長いけどこっちの方がわかりやすいと思う。結構渾身の動画。
いろんなスライドレール
スライドレールには横付け以外にもめちゃくちゃたくさんの種類がある、ソフトクローズや見えないやつとが、底付けとかめちゃくちゃ多い。
でも一番ベーシックなのは横付けタイプなので、単価的にも飛び抜けて安い。
これを使いこなせる人ならなんでも使いこなせると思うので他のものは特に説明しない。
この記事が参考になれば幸い。