昔ちらっと紹介したLamelloのZeta がひょんなことから自分の元にやってきた。(もらったわけでは無い。)
ただのジョイントカッターではない、
ビスケットジョイントというのはユニークな手法で簡易に木材を接合する技術で、その中身はシンプルで用途は限定的だ。
しかしこのZETAは似て非なるもの。
革新的技術とアイデアを持って、全く新しいジョイントシステムを楽しめる、DIYerにとっては高価なおもちゃ。
家具製造の現場においては一つの産業革命をもたらすツール。
趣味でDIY木工やってて革新的な工具を手にする機会はあまりない。
オトナDIYerはプロツールにもジャンジャン手を出すけど、多くは古くから使われているアイデアの発展形で、必要十分ではあるとしても目新しさには欠ける。
そんな中、今なお有効な特許に包まれたこいつを手にすることができたのは一人のオタクとして幸福の極み。
これはもうブログとYouTubeのネタにするしかないと思って、調べまくったのでちょっと聞いて欲しい。
そもそもジョイントカッタやビスケットジョイントについて知らない人は、先にこの記事を読んでほしい↓
図解ビスケットジョイントのやり方 & マキタPJ180DZジョイントカッター 工具レビュー
ビスケットジョイントの出番が板接ぎだけと思ったら大きな間違いだ、もちろん板接ぎには絶大な力を発揮するが、ビスや釘を使わないDIYに挑戦したい ...
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Contents
ラメロのジョイントシステム
それは様々なビスケットっぽいパーツを利用して、いろんなことができちゃうシステム。
残念ながらマキタのジョイントカッタではできない。(一部できる)
まずこの写真を見て想像力を膨らませて欲しい。
一般的なビスケットジョイントは、ビスケットを雇いザネとして使って材料を接合する無くてはならないものだけど、その進化系であるラメロのジョイントシステムは、写真のようにビスケット側に無限のアイデアを詰め込むことで、さまざまな機能を付加した。
(今回のZerta P2は発展系のPシステムを搭載しててこれらの機能とも大きく関わるが、それは後の項目で。)
で、できることは大きく分けて2つ。
- 分解組み立てシステム
- セルフクランプ能力
まずはボンドによる永久的な接合だけでなく、外すことも可能になった。
つまりビスケットにノックダウン金具(KD)としての機能を仕込むことで、締結、スライド方式など、多種多様な組み立て家具を作ることができるようになった。
(ノックダウン式とは一般に分解組み立てできる構造を指す、KDとも言う)
次にセルフクランプ能力により、ボンド接着時にクランプをかける必要がなくなった(とここでは言っておく)。
これは材料を斜めに接合したいシーンなんかで、垂直方向にクランプできないシーンで無敵。
非常に優れた機能だけど、代用できる金具が無いとはいえない。
ということで本質はそこではなく。
異次元の作業効率
(これに関してはLamello公式のYouTubeなんか見てもらった方が早い。)
それを実現しているのが、このゼータP2本体に備わった独自の加工技術。
機構の詳しい説明の前に、Lamelloという会社のヤバさについて語らせてほしい。
興味がないって人は飛ばしてくれたら良い(良くない)。
ラメロとは
いろんな工具メーカーのロゴを並べてみた。
Question : ビスケットジョイントシステムを発明したのはどのメーカーか。
A:ラメロ
見ればわかる。
見ればわかるのがラメロのロゴ。
1944年スイス、隣のヤバい国が東のヤバい国に押され始めた頃、ヘルマン(ハーマン)・シュタイナーによって創業されたのがラメロ社。
1956年に最初のビスケット接合機が開発され、現在のようなポータブル型のマシンが製造されたのは1968年頃だという。
ビスケットジョイントの歴史はめっちゃ古い。
特許切れとともにあらゆるメーカーが互換性のあるジョイントカッタを製造したけど、Lamelloのものづくり哲学はその先の可能性を見据える。
ラメロの哲学
ラメロのモットーは新たなる木材接合技術を生み出すこと。
半世紀前、ビスケットジョイントという新しいシステムを開発し、上市した。
では今後、各部のさらなる安定化を、軽量化を、コストカットを。
だけではなく。
果たして我々の発明品はこれが完成系なのか。
1工具1工程で定位置に定寸で溝を切れる。形状の汎用性は低いが工数も少ない。
ならばその溝に合わせて汎用性の高い金具を作れないか。
溝の切り方もあらゆるシーンが想定できる、シーンに合わせて金具を作れば無限の可能性が広がる。
まったく違ったアプローチから生まれた一つの発明、そこに秘められた可能性を徹底的に追求することで、さらなる枝葉を伸ばし、新たな価値を実を実らせる。
半世紀前の発明を、いまだに手中に収めしゃぶりつくし、今もなお新しい味覚を発見しているとんでもない変態だ。
ここまで徹底した開発サイクルには深すぎる(変態すぎる)ものづくり哲学を感じざるを得ない。
最初にこのLamelloの作ってるものを知った時にそう思った。
その他ビスケット関係以外にも、ぶっ飛んだアイデアの木材ジョイントシステムや金具をたくさん作っている。
マーケティングと知財戦略で背後を取り合う現代のエコノミックゾンビたちとは違う世界線を生きている。それで生きていけてるのがすごい。
明日には買収されてるかもしれないけどロマンしかない。
ラメロ ゼータP2のご尊顔
とりあえず姿を載せておく。
Pシステムとはなにか(動画)
とんでもない動作をするので、この辺りは動画で見てもらった方がわかりやすい。
スローモーションを駆使して断面加工動画をとってみた(冒頭)
動きのヤバさが伝わったと思う。
記事の冒頭で説明した締結システム自体は変態Lamello社は結構前に開発していたみたいだけど、それを数次元ほど飛躍させたのがPシステム。
これはビスケットの形状うんぬんではなく、機械側に備わった新しい加工システムで、特許以前に技術的にも難易度が高そう。
決定的な違いは下の通り、溝の形状だ。
試しにマキタのジョイントカッタとLamelloのZeta P2で断面を比較してみた。
ラメロの溝はT型の断面になっていて、本来このような加工は3軸以上のCNCルータを使わないと不可能と思われる。
2010年にはこの機能を収めた初代ZETAが開発されたらしい。
この溝はビスケットパーツを固定する掛かりとなる。
具体的には、
このような感じでスライドさせて挿入する。
それだけで引っかかって抜けない。
これをオスとメス1セットで双方に入れてやればこのような感じ。
(写真のビスケットパーツはテンソ(Tenso)というタイプのセルフクランプパーツ、コイツを差し込んで接着面にボンドを塗ってカチッとするだけでほとんどの場合ノークランプでいける。)
この溝ひとつで後加工を必要とせず、差し込むだけで様々な金具を取り付けることができる。
(必要なものもあるが、時短の工夫が徹底的されている)
恐るべきは1分もあればこの加工を楽勝で10箇所以上に施すことができるという点。
100箇所までなら絶対CNCより早い
優れた金具は世界に数あれど、前加工がここまで簡易なものが他にあるだろうか。
ではいったいどうやってこんな加工ができるのか。
ラメロ Pシステムの秘密
まず内部の刃がこのようになっている。
そして刃の断面がこう。
当然T型をしている。(通常の4mmのビスケット加工は刃を交換する必要がある)
というわけで内部的にこのような動作を行うことになる。
すごい、ラメロすごい。
この動きがすごくドイツっぽいと思った。(スイスだけど)
なんせドイツFESTOOLのドミノジョインタと似ている。
意外なことに、このPシステムの動作自体は時間にして0.1秒程度で完了する。
押し込んだと思ったら「カツン」と手応えがあって終了。
一瞬の出来事なので、ズレないかなーとか心配する間もなくバッチリ加工が完了している。
この動作のスイッチはここにある。
加工時に本体をぐいっと押し込むと赤いでっぱりに当たってスイッチオンされる。
すると「カツン」という手応えとともに加工が完了する。
この赤いでっぱりは奥行きのストッパーにもなるので、マキタのジョイントカッタにあるような20とか10の調整ダイヤルはいじらない。
そちらは常にMAXで、Pシステム側のダイヤルで調整する。
使うビスケットパーツに応じて変更するが、大体は14と10を使うことが多いと思う。
クラメックス・テンソ・ディヴァリオ
Pシステム対応のいかれたビスケット型金具たちを紹介する。
クラメックス Clamex
これはノックダウン専用の金具で、日本では一番有名だと思われるタイプ。
Pシステム対応品はCNC加工を前提に2009年に登場したようだ。
レバーを操作して締結するタイプで、外側から六角レンチを差し込んで操作する。
主に板材を組み合わせて作る棚なんかに相性がいい。
左右方向の誤差も1mmちょっとくらいなら許容してくれる。
六角レンチを差し込むアクセス穴は後加工が必要だけど、当然専用ジグがあり直角と45度は基本ジグでOK、他の角度も別売りジグで多分対応できる。
締め込み強度は結構強いけど表現しにくい。
当然ボルト締結には劣るので、テーブルの脚みたいに少ない接点で接合する上に揺さぶられるものには良く無いと思う。
そして、このクラメックスに限ってはマキタのジョイントカッタで代用可能なものがある。
それがこのクラメックスS-18というタイプで、こちらは上にあげたような引っ掛かりがない。
なので一般のジョイントカッタ(4mm刃)でも倍の8mm分削ってしまえばビス留めで仕込むことができる。
ちょっと面倒くさいけど、Pシステムを搭載した本体はとんでもない価格なので、手間をコストに換算しないDIYとしてはこちらしか選択肢がないとは思う。
6mmの穴は見えてくるけど、クランプがかけれないシーンなんかでは、セルフクランプとして中に仕込んでボンドで閉じ込めてしまうような使い方もするらしい。
テンソ Tenso
差し込みパッチンな感じの見た目はノックダウン用途に見えるけど、ボンド留めの際のセルフクランプパーツとして仕込むもの。
いつものブナの圧縮ビスケットの代わりにこいつを使えば、ボンドを塗って差し込んだ後のクランプは不要というとんでもない代物。
板接ぎなんかにも十分使えると思うんだけど、外掛けのユニクランプの方が当然強いので、わずかな隙間を圧力で誤魔化すのには向かない。
真価を発揮するのは板同士を斜めに接着するなどの外部からクランプのかけようが無いシーン。
そんな場合でもこいつは常に接着面に垂直な圧力をかけてくれる。
例えば壁全面に六角形の棚を作りたいとする。
もしも接着面が100箇所以上あるとして、全てクランプをかけながらやっていくならば、複雑なジグを用意してなお数日かかる可能性もある。
そんなときこれを使えば組み立て作業は1時間かからないかもしれない。
個人的にはこれが一番普段の作業なんかにも活かせそうなんだけど、Pシステムが必要になるので現実的では無い。
ディヴァリオ Divario
これはスライドタイプのKDシステム。
棚板をスパスパ差し込むようなところに使用する。
上の2点と比べると少し手間は多いけど、それも極力配慮するための最適化されたジグが用意されている。
脱着可能で、装着した時は完全隠蔽。
詳しくは説明しないけど、とりあえず変態。
ゼータP2 その他の機能と総括
まずジョイントカッタとしての機能は、少なくともマキタのものに搭載されているものは全て有しており、機械的な動作のヌルヌル感や細部の調整機構においても優れると思われる。
基本的に「痒くなりそうなところは事前に掻いておいたよ」と言わんばかりの振る舞い。
ジグに関しても「あればよかったのに」と思うものも大体お見通しで、きちんと別売りで用意されている。
角度の計算が面倒くさいこともお見通し。
最後に、
そもそも一般的なDIYerに、この宝石のようなゼータP2が必要かという点について考えてみる。
僕は絶対にいらないと思う。
箱物家具の製造効率を高める必要のある、産業的DIYには絶大な恩恵があると思う。(DIYとは)
DIY向けの電動工具の選択基準
Zeta P2を買う人はいないかもしれないけど、その他さまざまな電動工具の特性や選び方について、オタクDIYerたる自分の知識と体験に基づいて徹底的に解説している。
よかったら見てもらえると良い
【まとめ】DIY電動工具の選び方徹底解説&おすすめ品・マキタ・ハイコーキ・リョービetc.
木工DIYにハマったなら道具を増やすことに執心すべきだと思う。 有史以来、新しいモノの前には新しい道具があった。DIYにおいても新しい道具に ...
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海外にも目を向けると楽しい
日本の工具はたしかに品質に優れる方だと思うけど、ワクワクするようなアイデア商品は、知る限り全く出てこない。
ワクワクしたいときは下の記事を読んでほしい。
世界と日本の電動工具メーカーと発明の歴史
世界は広い。 僕は大阪出身で大阪が世界一だと洗脳されて育ったけど、初めて東京に行った時はやっぱ参りましたと思ったね。 間違いなくマキタやハイ ...
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