たとえば家具を作ろうと思えば、あこがれの名作あれニトリであれお手本になる所はめっちゃある。
どれも素人には実現不可能と思える造形で溢れているけど、どうすれば実現できるか自分なりに考え、情報を集め、実践してみるのはDIYの楽しみの一つじゃないかな。
そんな種々の造形の中でボトルネックになるのは曲線造形かもしれない、と思ったので、
・曲線を作るために最低限必要な道具
・それらを使った造形の手順
・それらの選択の基準
について話していきたい。
曲木ではなく切削による曲線は、最低限バンドソーとディスクサンダーの2つがあればほとんど実現可能で、そこにトリマーを加えれば保存と複製が可能になる。
それぞれの特徴が相互補完しあって、ほとんどの形が実現できるので、それぞれがどんな役割を担い、どんな方法で加工できるのか解説してみる。
許される最安価格を狙っていけばトリマー5,000円、バンドソー20,000円、ディスクサンダー20,000円の、合計45,000円となる。
ディスクサンダーはもうすこし上のものが欲しいけど、それは後述する。
Contents
加工の流れ
まずどんな曲線であっても墨付けは原寸図面をスプレーノリなんかで材料に直接貼るのが一番いいと思う。
ジョイント部なんかはちょっと工夫が要るかもしれないけど、これが一番簡単で正確だ。
パソコンが使えないって人はもちろん手書きでもいいけど、無料CADか、最低でもAdbeイラストレーターは欲しいところ。
CADは何ていうかもう工具のひとつだ。
どんな形であってもカットラインをはっきりと正確に描く(貼る)ことができる。
もちろん印刷時の紙の伸縮は存在するけど、自分が書くよりはるかに正確だと思う。
このような単独のものであれば寸法すら指定する必要がない。
スプレーノリは3Mのものがベターだけど77番あたりをお勧めしたい。
99は再剥離するタイプだけどこれも使いやすい。
CADを推したいけど手書きで曲線の設計を行うためのヒントも書いてある。
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切り開くバンドソー
未開の荒地に足を踏み入れて道を切り開く先遣隊、それがバンドソー開拓団。
バンドソーとはノコギリ刃が輪になって無限に回転し続ける工具。
ジグソーや糸鋸盤はノコギリと同じように上下するため、上りのタイミングでは切ることができず材料を跳ね上げてしまうこともある。
バンドソーは減速することなく一方向に切り続けるため、カット効率が高く硬い木にも相性がいい、材料も大いに安定するので、案外細かいところを攻めたりもできる。
手持ちのジグソーとの差別化は
- ジグソー - 大きな材料を切り抜く(穴あけ)
- バンドソー - 小さな材料を切り出す
みたいな感じ。
盤に乗らないような大きいものはジグソーが便利だと思うけど、個人的にはバンドソーだけで事足りている。
(くりぬきは丸ノコと手鋸でやっちゃう)
というわけで木材の曲線加工においては、バンドソーで切り出すのが常に最初の1工程になると思う。
ここでの目的は全体の形状をざっくり切りだすこと。
墨にそって正確に切ることは基本的にしないし、そもそもできないので、そんなこと彼に求めてはいけない。
具体的には1mm程度は余裕を見て切り抜く。
結構キワを攻めたとこもあるけど、バンドソーは刃の直角が維持されやすいので切断面がナナメになりにくいのも特徴。
このようなざっくりした切り抜きが完了すれば、バンドソーは役割を終え、ディスクサンダーにバトンを渡す。
ざっくりした加工が得意なバンドソーはパワータイプのキャラ。そんなイメージでいいと思う。
納めるディスクサンダー(+スピンドルサンダー)
バンドソーが切り開いた荒地を実用可能なレベルに整備するのがディスクサンダー。
回転する盤面に材料を押し付けて削る。
バンドソーがパワータイプならこちらはテクニカルな職人タイプ。
大きな面積の加工は苦手だけど、カットラインの残りの1mmを攻めて、設計寸法ぴったりに納める器用さがある。
なので両者はお互いの欠点を補い合うグッドパートナー。
ただし図のような入隅(いりずみ)部分を削ることはできない。
なのでここを攻めるためには円盤をディスクサンダーで作り、ペーパーを巻いて手動で削るか、その機構を備えたスピンドルサンダーで削る必要がある。
(少し汎用性に劣るがスピンドルサンダーはディスクサンダーと同じ工程を担当するペアと考えても良い。)
ほとんどの曲線加工は、「バンドソー→ディスク(スピンドル)サンダー」のクリティカルパスで完成することになる。
しかしこの2つは人の目と手で加工寸法を決める、いうなればセミオート電動工具。
例えば天板の四隅に均一な曲線を加工する場合、完璧に同じにできるとは言えない。
仕上がり寸法は毎回違うはず。
開拓地に産業革命を起こすトリマー
トリマは上の2つで一生懸命作った形状を、より少ない手間で、より正確に複製できる。
(ディスクサンダーでできない内側の加工をサポートすることもできる。)
1箇所の加工だけなら上の2つだけで十分だ。
でもなにを作ろうと思っても、どこかが左右対称になることがほとんど。
曲線は前後や左右でセットになることが多い。
テーブルの四隅や、椅子の左右のフレームなど、左右対称じゃないとおかしくなるよね。
こんなものとか。
その時には必ずと言っていいほどトリマーが必要になる。
使うのは倣い加工という技で、トリマの基本中の基本にして重要な技なので下の記事にまとめてある。
【2021.12更新】倣い(ならい)加工というコピペ技術【トリマーで何ができる?その2】
ここではトリマーの超重要技術である「倣い加工(ならいかこう)」について説明してみようと思う。 その1では、基本技能に近い例を紹介した。ちょっ ...
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上の記事で詳しく触れているが、トリマは型(テンプレート)を使うことで曲線の加工を行う。
写真はバンドソーとディスクサンダーでくり抜いたものをトリマーで複製して、左右対称を作ったの図。
というわけでトリマーがあれば一度作ったものをいくらでも複製していくことができる。
この辺は建具を作るときに作ったテンプレートで、製作工程自体は別記事でまとめてある。
【前編・トリマーによる曲線加工】ラタン張り引き戸の作り方
3枚引きの引き戸を作った。建具は初めてだけどまあまあ満足できてる。 この記事では、いかにも難しそうな継手にまたがった曲線加工のトリマーによる ...
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チームプレイの構図
なので、まずはじめにバンドソーとディスクサンダーの職人コンビが、妥協のないマスターテンプレート(型)を作り上げる。
そしてその型を使ってトリマーが本番の材料を加工していく。(バンドソーによる先行荒加工は必要)
バンドソーで大枠を切り出す
ディスクサンダーで細部を納める
トリマーで実戦に臨む
この3者のコンビネーションがどれだけ理にかなっているかわかると思う。
一切の無駄がない。
次にこの3つの工具をどのように選ぶべきか、曲線を作ることを念頭に基準を明確化していく。
バンドソーの選択
曲線加工のためにバンドソーにはどのような能力が求められるか。
厚物を挽き割る必要がなければ、正直不要なものの方が多く、高額なものを買う必要性はまるでない。
切れるだけでいい、まじで。
必須能力
- 切れる
あれば有利なもの
- 速度調整 - 硬い材料に
- フトコロ寸法 - 大きいものに
- 曲線専用刃がある
必須能力を備えたぶっちぎりの最安品はタカギだと思う。
曲線刃とは幅の狭い小回りのきく刃のことで、SK11のものが適合する。
この機種はその他類似品と比べて群を抜いてコスパが高い。
個人的には切れればなんでもいい、精度なんて全く必要としない。
曲線が切りたいなら、存在するだけで価値があるのがバンドソーだと思う。
その構造上、切断工具としては非常に安定性が高く、切断効率も高い。
テーブルソーみたいにミサイルを発射したり、ジグソーみたいに突然暴れる機能も搭載していない。
でも僕が使ってるのは京セラ(RYOBI)のTBS-80。
フトコロ寸法に優れ、ずば抜けた速度調整機能を搭載しているので、非鉄金属を切ったり大物の取り回しにも優れる。
これらの付加価値にプラス1万円出せる人は出して後悔はないと思う。
気になる人は下の解説記事も読んでもらえると良い。
厚物の挽き割りをしたい人が多い気がするけど、DIYモデルはパワーの面から十分と呼べるものは存在しないと思う。
リョービ 卓上バンドソーTBS-80【レビュー&評価】他DIYモデルとの比較
リョービのバンドソーTBS-80を買って結構使ったのでレビューしたい。 木工用のバンドソーとは文字通りバンド状になったノコ刃が回り続けること ...
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ディスクサンダーの選択
バンドソーには切れたらいいと言ったけど、ディスクサンダーには精度を要求したい。
そう考えるといまだ選択肢はプロクソンのみ。
こいつは盤面が鉄板でできていて平面精度が高い。ただそれだけ。
ディスクサンダーに必要な機能はそれだけでいいのに、それを搭載してるものが全然見当たらないのでこいつ一択になる。
他のものはすべて盤面がマジックテープなので、当てた面が丸くなる。
でも型作りにおいてはそこまで厳密ではないかもしれないし、プロクソンのディスクサンダーは非常に高い。
なのでこのタイプも選択肢に入れておく。
精度は劣るが汎用性という面ではやはりこのタイプの方が高い。
ベルトサンダーは球面の加工にも使えるし、ジグを作ればスピンドルサンダーの代用もできなくはない。
ただし、垂直に突き付けたいジョイント部の平面性を出す時には、盤面のクッション性で加工面が丸くなるので注意。
曲線であればさほど問題にはならない。(多分)
例えばこんなものを作るときにはこのベルト部分が活躍してくれる。
プロクソンのディスクサンダーについては下の記事で解説している。
【レビュー】プロクソン ディスクサンダーDS250【唯一無二】
これはオタク専用ディスクサンダー。0.1mmのスキマを見て心神喪失状態に陥ったり、1日50回くらい「完璧」って言葉を使ってしまう、ちょっとア ...
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トリマの選択
トリマは上の2つよりも安いが、圧倒的に汎用性が高い必須の工具なので既に持っている人も多いと思う。
家具を作ろうと思えば使わない時はないので、ネタが多く、終末DIYでも散々触れてきた。
結論から言って、製品ごとの精度の違いで悩まされることはあまりなく、ハイエンドを使っったからと言って、できることが増えるということも殆どない。
速度調整機能は焦げやすい局面においては非常に便利だけど、それを手に入れるには2万円ほどかかる。
ヘビーに使う人にとってその2万円の出費は非常に価値が高いけど、万人にとってそうとは限らない。
なので最安値で揃えようとやはりタカギ。
「できること」に関してはこいつで既に必要十分な能力は満たしてると思う。
ラミネートトリマは原始的な工具であり、均質化が進んでいる。
しかし後発のトリマもことごとく電源コードが真上から出ていて、使いにくいことこの上ない。
まったく工夫が見られない。まさかコード横出しするのに特許でもあるのって思うくらい。
その点を考慮すると、あらゆる構造において国産ハイエンドより優れる点の多いDIY機、DeWALTベースの京セラ(リョービ)MTR-42がいまだにナンバーワンだと思われる。
こいつの性能がどのように優れるかは、説明があまりにも簡単なのでこちらで説明している。
リョービMTR-42がDIY最高のトリマな理由【VS.マキタM373】
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バッテリ式となると国産ハイエンドが選択肢に入ってくる。
それでも形状的な扱いやすさは入門機のMTRが上回る気がするけど、ブレーキングやソフトスタートなどの安全面や、速度調整による汎用性なんかはやはりハイエンド。
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しかしこのトリマという工具は、たくさんの可能性を秘めてはいるものの、はじめて使う人にとっては危険も多くはらんでいるので、基本的な使い方は知っておいた方が良い。
特に進行方向。
仕上げ加工もやはりトリマ
どんなものを作っても最後には面取りが必要になる。
この面取りがビシッと決まっていなければ、どんなものを作ってもパッとしない。
その例を出してみる。
このような感じでトリマ一つで尋常じゃなくイメージが変わる。
まとめとおすすめ
結局のところ加工のウェイトは大半をトリマが占める。
なのに一番安いとはこれいかに。
もちろんバンドソー氏とディスクサンダー氏の協力なくしてはこれらの加工は成し遂げられなかったことを忘れてはならない。
彼らに賛辞を。
というわけでこれらは優劣なく3種の神器だ。
僕が実際に使ってるものをまとめておく。
その他の電動工具の選択基準
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【まとめ】DIY電動工具の選び方徹底解説&おすすめ品・マキタ・ハイコーキ・リョービetc.
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