箱物の固定で最もポピュラーで簡単な方法がこの「片胴付き追い入れ接ぎ」(覚えにくい)だと思う。
引き出しの箱なんかはビス留めでも十分使えるんだけど、1歩進んだDIYをやってみたければまずはコレ。
トリマーさえあればできる上に、難易度はそのままにさまざまな発展系が考えられる。
今回は材料の選択から仕口の寸法、安定して作るためのジグ、いろんな発展系と、実際にやりながら解説してみる。
トリマーの基礎知識はこちらにまとめてある。
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片胴付き追い入れ接ぎとは
写真のように差し込んで固定する方法、それが片胴付き追い入れ接ぎ。
図のフラットになっている部分が「胴」そして片方に胴があるので「片胴」ということ。
見ての通り直線的な溝加工だけで完成する仕口なので、トリマーだけで完結でき、他にもテーブルソーやスライドマルノコなどいろんな道具で作ることができる、特別なジグも必要ない。
冒頭で書いたようにこの基本形を作ることができれば色んな発展系、いわゆる「納まり」を作ることができるのでみてほしい。
発展系が非常に簡単
右下がスタンダードな組み方。次は継ぎ手の隠蔽、次は隠蔽プラスチリ(段差)つけ、最後の左上は化粧の面をとってある。
抜くとこんな感じだ。
とまあ、作業としては溝を途中で止めるだけなんだけど、結構色んなバリエーションが考えられる。
チリと呼ばれる段差は伝統的な工夫の一つで、材料の接合部はピッタリ合わせても木材なんかは伸縮の関係でどうしても将来的に段差ができるので、それを見越して最初から段差をつけるのがチリの考え。
ほとんどの家具なんかでこのような段差が見られると思う。
この小さな段差を設けることで、材料の面取りなんかも自在にできる。
継ぎ手が見えなくなってしまうけどこの仕口はそんなに格好良くないし、そもそも自慢できるほど難しいものではないので隠してしまっていいと思う。
どのように納めるかは人次第、手間は変わるが難易度は変わらないので好きにすればいいポイント。
材料の選定
では実際作るにあたってどんな材料をどんな厚みで揃えるべきか?
側板、前板、向こう板
まず前後左右を組む側面の板は
12mmから18mm
箱自体の大きさは大きくなるほど側面がしなりやすいので幅と奥行きによって変えている。
ぶっちゃけ厚い分には問題ないけど厚みの分だけ中も狭くなるし、見た目のバランスなども考えるといい。
参考までに、今回作る250mmx350mmの引き出しは12mmで作るし、工具箱の450x450の引き出しは15mm、食器を入れる600x500の引き出しは16mmで作った。
材料はホームセンターで揃えやすいもので言えば。
パイン、ファルカタ、キリなど集成材
メラミンカラー棚板
これも用途によって棲み分けしていて、基本的にはメルクシパインの集成材を使う。
衣類などを入れるものには、一応キリやファルカタなどの調湿能力が高いとされるものを使う。まあパインでもいいと思うけど。
メラミンカラー棚板は下の写真のようなツルッとした板で、水回りによく使う、食器なんかを入れるときにはすごく便利。
注意したいのは、メラミン樹脂によって表面が強化されたものであって、ただのプリント合板ではないということ。
プリント合板はわずかな擦り傷で茶色い下地が出てしまうのでマジでおすすめしないけど、メラミン樹脂の化粧板はかなり強い。
いわゆる「メラミン化粧板」とはまた違うんだけどとても便利。
(ただしこれを使うときはビス留めの方がいいと思うので、今回の趣旨とはずれるかも。)
底板
色んな人を見ていると底板にかなり分厚い板を使う人が多いように感じる。
底板も薄いほど容積が広くなるし、四方(または3方)に溝を入れて支えることでかなりの強度が出るので薄くても良い。というわけで
5mmから9mm
自分の場合はホムセンの5.2(5.5)mmのベニヤを使うのがほとんどだ。
使いたい材料にその厚みがなくて9mmを使うことはあるけど、よっぽどのことがない限り5.5mm。小さい引き出しには4mmや3.5mmも使ったりする。
例えば食器を大量に入れる20kg以上の荷重がかかる引き出しでも、5.5mmのベニヤに2.5mmのポリ合板を貼り合わせて8mmだった。
これでタワむとかほとんどない、四方で支えるというのはそれだけ強い。
では材料は?
シナベニヤ
基本的にはこれが一番多く使われると思う、すべすべで滑らかな表面の白くて綺麗なベニヤで、化粧材としても多く使われる。
ただ、自分の行きつけのホムセンにはシナが置いていないのでネットで買わないといけない。
だからいつもラワンベニヤを使う。ラワンベニヤというのはいわゆるベニヤ。ベニヤとしか書いてないことも多い。
化粧材にはあまり使われない、表面がざらっとしていて毛羽立ちやすい材料だけど、研磨してオイルを塗って研磨すれば結構いい仕上がりにになるので自分は結構好んで使う傾向にある。
ラワンという木自体、日本のアンティーク家具には結構使われていて、決して悪い木ではない。
この写真は塗装したラワンの白太面。
下は昔の学校から引き上げてきたラワンのテーブル。ズタボロだけど最高の風合い。
仕口の寸法
全体の寸法はこのような感じ。
向こう板、側板、前板はそれぞれ位置関係を表す名称。
今回は前板の前にさらに化粧板をつける想定。
それぞれなぜこのような寸法になってるか説明する。
まずスキマについて。
このスキマを設けている理由は、差し込んだときにサネがつっかえて入りきらなくなることを防ぐため。
胴つきがピッタリ当たらないと引き出しの横幅が変わってしまう。
(理論上の話になってしまうけど木材の伸縮比率的にもこの隙間はあった方がいいと思う。)
0.5mmという数字を当てているけど、サネよりほんの少し深く掘るという気持ちを持っておけばよい。
次に3〜4mmというサネの厚み。
ここは比率ではなく固定寸法になっている、自分はほとんど3mmでやる。
人によっては薄すぎると感じるかもしれないけど、ここを厚くしすぎると下の図のようになる可能性がある。
木繊維を通しで切断するこの継ぎ手はこの方向にすごく弱い。
ぶっちゃけそんな大きな力が加わるわけではないし、底板でも固定されている。
そう簡単には壊れないと思うけど、もし1日100回引き出せば年間3万回以上、3年で10万回繰り返されると思えばちょっとねえ。
メザネの方は繊維が断ち切られているので破断しやすいけど、オザネの方は繊維がしっかりつながってて強い、だから3mm程度で十分。
これは引き出しの強度実験をしてた、とある家具協同組合さんのブログの受け売りだけど、この理論にはすごく納得できたので自分はこのようにしている。
ちなみに細いトリマービットには1枚刃のものが多いけど抵抗が結構きついのでエンドミルがをお勧めする。
最後チリについて。
ほとんどの場合は納まりの綺麗さの問題。
引き出しの構造によってはこの部分が背板に当たって奥行きを決める場合もあるので、そのときはここを切って調整するために残しておく。
そうでなければツラに切り揃えてもいいけど、自分の場合少し残しておいた方が綺麗だと感じる。
底板の寸法
底板の納まりかたは図のような感じ、スキマなどの考え方は先ほどとほとんど同じなので説明することはあまりない。
5mm台のベニヤなら溝は6mmのエンドミルだ。
実践編
いよいよ製作しながらジグやコツについて話していきたいんだけど、長くなったので後半に分けたいと思う。
【実践編】トリマー1本でできる片胴付き追い入れ接ぎ【引き出しDIY】
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