前回記事で説明した(実際作った)型を使って椅子のフレームを作るまでのプロセス、悪戦苦闘するポイントなんかを解説していきたいと思う。
先に完成形状を説明しておくとこんな感じ。

一言で言うと「ならい加工は簡単」「ホゾはむずい」
型を使って木取り
型なんて楽勝って人はここからでいいと思う。
使いたい材料を決めたら型を並べてみて、部材を全部取れるかどうか確認、とる位置を決める。
荒材を使ってる時は荒のまま確認でもいいかもしれないけど、一枚プレーナーで剥いて木目を確認した方がいいのかも。
ホームセンターなんかのプレーナー材なら問題なし。
ロスの出ないように、変なところに節が入り込まないように、いい感じに木取りを行う。
基本的には見える部分は木表になるように、側面も見える側が木表よりになるようにとるといいと思う。

プレーナー掛けしたら墨付けを行う。
難しいことはなく型を当てて鉛筆で形を写しとるだけ。
この段階の墨付けはバンドソーで荒加工するためだけのものなので、神経質になるだけ損だと思ってる。


荒カット
次にこれを切り抜く。
ジグソーや糸鋸盤なんかでやってもいいけどここはバンドソーが役に立つ。

本番で使う材料はやっぱり堅い木が多いと思うし、安定して攻めたカットもしやすい。
カット時はラインから1mm程度離すのがベスト、でも鉛筆のライン自体少し外側に入ってるはずなのでもう少しギリギリを攻めてもいい。
切り抜くとこんな感じになる。

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ホゾを使う場合
じつはこの前段階で雄ホゾ予定のパーツだけこんな風に加工していた。

みただけでわかる人はそれでいいんだけど、説明しておくと、まずは仕口の胴突き(接合のライン)に対して直角になるように材料を切り出した。

この状態から、テーブルソーのマイター、もしくはスライド丸鋸で直角にセットしてホゾの厚み分を削っていく。

まず胴突きのところをピシャッとカットして、何往復もさせて刻んでいった。
ホゾの厚みは材料21mmの1/3となる7mmにしようと思ったけど少し切りすぎて6.4mmになった。
この辺を正確にやるにはスライドよりテーブルソーなのは間違いない。
僕はテーブルソーでやったけど、2万円のゆるふわモデルなので精度が出なくて辛い。
もっと正確にやりたければ万能機なんかについてるホゾ取りを使った方がいいけど、(そんなものは)ない。
こうなるとカットラインが胴突きとズレては困るので木取りの墨付けも結構シビアにやった。
トリマーで倣い加工下準備
いざトリマによる倣い加工。
型を貼り付ける、その前に使うビットを決めておく。
倣い加工には専用のビットを使うことが多く、主に3種類あるんだけど使うビットによって表裏が変わる。(別記事で説明)
なのでなるべく逆目にならないように、型を表裏どちらに貼り付けるかを考えた方がいいと思う。
板目の材料は加工面に逆目というものがあまり出ないけど、柾目の材料はもろに逆目を拾ってしまうので要注意。
今回は両端にベアリングがついたビットを使うので、どちらに型を貼っても表裏ひっくり返して進行方向を変えることで逆目に対応できる。
全周を加工する時は一方向の動作だと半分が逆目になるのでこのタイプが使いやすい。

この刃の形状に見覚えがない人もいるかもしれない。
こいつは12mmのベアリング付きエンドミルで、国内で見当たらなかったのでAliEXPRESSで買った。
Made in Chinaと侮ることなかれ、超硬かつスパイラルである以上切れ味はそこらのストレートビットとは段違い。
と言うわけで型を貼り付ける。
使う両面テープはは剥がせるタイプの両面テープをお勧めする。
さらに作業は手持ちのトリマーでやってもいいけど、安定性向上のためにトリマーテーブルを使うほうがいい。
トリマーテーブルは平たく言えばトリマーのベースをデカい板に変えただけなので、作ろうと思えば10分くらいで作れる。
YouTubeなんか見てるとかなり立派なものを作ってるのが多いから、しっかり作らなきゃと思うかもしれないけど、一旦は必要に応じてとりあえず平面の出たベニヤを使えば良い。
その辺も記事でまとめている。
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倣い加工実践
いざ倣い加工。
真横から刃が当たる倣い加工は逆目でキックバックしやすい、特に負荷のかかる木口は本当に注意。
どうしても逆目になる部分は前方に進める力をかけ続けるのがポイント。
スタート時も逆目でないとしても木口から当て始めるとキックバックしやすいので、それ以外のところからスタートした方がいい。
木口でキックバックすると材料が引き裂かれ一発でダメになるし危険。
それさえ気をつければそんなに難しいわけでもない。
スパイラル形状のエンドミルを使ってる時点で抵抗がだいぶ減るのでそれも安全対策。
ちなみに両端ベアリングビットの裏表の切り替えは刃の出し具合で調整する。(別記事で説明)

仕口の調整
残しておいた仕口の加工を行う。
椅子は人間が体重をかけて揺するため、特に強度が求められる家具だ。
日本の椅子製造においてはホゾメインで、しばしば2本ダボと併用されているように思うけど、ダボなんてクソだと言う人もいる。
まあいろんな意見があるっぽい。
The Chairの解体写真を見たことがあるけど、やっぱりダボとホゾを組み合わせて使ってある。(平ホゾを2本ダボが貫通する形)
最近ではダボの改良版(平ダボ)とも言えるFESTOOLのドミノジョイントってのが特に海外では主流になってきていると思われる。
椅子なんかにもバンバン使っているし、クソ高いんだけど日本でもかなり流通している。興味のある人は調べてみるといい。
下手なホゾで効きが甘かったらダボ以下だろうし、腕にかかわらず一定のクオリティを担保してくれるそうなのはドミノじゃないかな。
最新式は70mmまで差し込める。ていうか圧縮材を使うので個人的にホゾより強いんじゃないかと思ってる。
結局イノベーションを否定した人から老いてゆくわけで。
まあそんなものは持ってないし今回のようなフレームは上2点の接合部で脚の開きを完全に止めなければいけないので、とりあえずホゾでやる。

胴突きを平&直角にするのが尋常じゃなくムズイ。
しっかりしたテーブルソーがあれば調整なんて必要ないのに。
ドミノならスパッと切って繋ぐだけ。
ちなみに椅子のフレームはビスケットで繋ぐもんじゃない、壊れるとおもう。
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メス側のホゾの胴突きは写真のようにオス側と重ねてケガキ線を入れて、ディスクサンダーで整えた。
このケガキ作業、本職は白柿って刃物を使うことが多いと思うんだけど、刃のしなるOLFAのほうがDIY的に使いやすいと思うんだよね。

DIYの技術もプロの技術を正解とする場合が多いけど、日本の道具には合理化の余地が多く残されているものが多いと思う。
多くは触れないけど、「あ、こっちの方が楽じゃん」っと思ったらそれが自分にとっての正解。
その後はボール盤で下穴を開けてノミで整えた。

本当は角ノミあるんだけど、ホゾの厚みが予定より薄くなってしまったのでしょうがなく。
DIYなら下のハイコーキのやつがベストだと思う。
XYのフライステーブルが付いているのと無いのとでは雲泥の差。(ウチのはついていない)
というわけで下のようになった。

倣い加工の記事なのにホゾに苦心する記事になってしまってるのは、FESTOOLの商品をめちゃくちゃ高額に販売しているハーフェレジャパンが悪い。
もしくは日本の立地が悪い。
接合


対して書くこともないけど注意したのは以下2点。
- ねじれ
- 脚の開き
ねじれはユニクランプで高さをある程度見ながら目視で判断。
脚の開きは実際計測して2本のクランプの強弱で調整。
ボンドはホゾ組には必ずいつものタイトボンド。
微調整
頑張った甲斐あって隙間はなくくっついてくれた。
接合部のR部分はわずかな誤差、やっぱり完璧にというのは難しい。ここでは円盤巻きペーパーが役に立つ。

削りきれない部分は型のR部分をもう一度当てて僅かに削った。
高さ方向に目違い(段差)ができた場合の修正は手鉋が一番早い、小さければランダムサンダーを慎重にかければある程度何とかなる。
どのみち塗装前にはペーパーがけしないといけないけど、接合部は木目が直行するので、どのみちランダムサンダーかオービタルサンダーがないと研磨しにくい。

面取り
このようなデザインのフレームは面取りをすることで見違えて完成度が高まる。
全面ボーズ面でもいいし、外周は2mmの糸面で内側だけ5mmとってみたり、みたいに差をつけてもシャープな感じになる。
脚先に向けて丸く削ったり、手工具でいろいろやってみてもいいと思う。
ベアリングが当たる面にガタ付きがあれば見事に拾うので、前段階でしっかり整えておきたい。

塗装&完成
塗装はやっぱりオイルフィニッシュ。(主観)
結構苦労したしせっかくなのでめっちゃ高いこいつを使った。
興味があればサンプル瓶もあるので試してみては。
塗り方についてはマニアックな記事があるのでそちらを参考にして欲しい。
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【#02塗り方編】オイルフィニッシュとは?【塗装と原理】
ワックスの塗りかたと同様に、オイルフィニッシュに絶対的な方法というのは存在しない。 自分の求める仕上げレベルや、材料なんかによっても変わって ...
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というわけで完成した写真を載せておく。






写真ではぱっと見わからないアラもあるけど、その辺は動画で解説しようと思う。
動画解説
この記事はやや動画先行型なのでこちらの方がわかりやすいかもしれない。
というわけで倣い加工はさまざまな形を作るためにはメチャクチャ基本的な技能とも言える。
ホゾなんか入ってきたりちょっと難しくなった気もするけど、強度がいらないものなんかだとビスケットでもいいと思うのでぜひチャレンジしてみて欲しい。