今回のホールドダウンクランプは、Tスロットトラックを装備した盤面の専用クランプで、自作ボール盤テーブルをさらに強化するために作ってみた。
買ってもさほど高いものではないけど数を揃えると結構高い。
原理は簡単だけどなかなか奥が深いのでジグ作りマニアなら楽しめると思う。
今回は真鍮とオークで作ってみたので、その全ての工程と考え方なんかについて説明したい。
とりあえずボール盤の作業性はめっちゃ上がった。
以下は装着するために前作ったボール盤テーブルの参考記事。
【固定治具】木工に最適なボール盤テーブルを作る【図面と考え】
正確な穴を開けるためにはボール盤が不可欠だけど、DIY用として市販されてるボール盤は木材加工という点で使い勝手がいいとは言えない。複数の材料 ...
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Contents
原理
ホールドダウンクランプは「第3種てこの原理」でホールドするクランプだ。たぶん。
中心のネジを力点として締め込めば、左右が支点または作用点となってワーク(加工物)をクランプ(保持)できる。
支点は作業盤面に押し付けられる形になるけど、こちらにも力点からの距離に比例した力がかかるため、ヤワな盤面は凹む。
写真と逆方向に使う時は力点以上に力がかかる。
柔らかい針葉樹合板なんか使ってるとボコボコになるので使っちゃダメ(僕みたいに想像力の欠如で使っちゃった人は間に力を分散させるベニヤなんかを挟むとなんとかなる。)
基本的に左右非対称の「へ」の字型につくれば、左右で挟める厚さや距離が変わって、結果的に汎用性が高くなる。市販商品もそのようになっている。
今回の場合はこのようになる。
それぞれ45mmと15mmがはさめる。
見ての通り軸が動く必要があるので、その可動域となる軌道を確保する必要がある。
本来、ホールドダウンクランプの設計で一番難しいのはここだと思うけど、実際のところはいちいち計算しなくても、挟みたいものを挟んだ体勢で穴を開けてやれば問題ない。
この時ボール盤を持っていない人は手間が10倍だと思うからさっさと買おう。
いくつかの角度で穴を開けてやれば、あとは手ノミなんかでその経路を軸がスムーズに動くようになるまで削ってやればいい。
今回はさらに、軸を安定させるために真鍮の丸棒を入れてある。
この真鍮が木との摩擦を引き受けてくれる。
これがなくても実用に支障はないけど、安定性と動画制作上の見栄えを重視して入れてみた。
加工しやすく木となじみの良い快削真鍮(C3602)を使った。
用意したもの
- 実寸の型紙
- 快削真鍮(C3602)φ15mm
- M6鬼目ナット
- M6 Tスロットナット
- M6寸切ボルト
- ナラ(オーク)20mm厚を少々
- 載ってない適当なM6ワッシャ
代表なところのリンクを貼っておいたので、買えるところがわからなかったら参考に。
型紙は一応下のものを印刷して貰えば使えると思う。
126という寸法が大体その通りの寸法で出力されるように倍率を変えれば問題ない。
製作工程
順々に解説する。
型紙を貼る
絶対スプレーのりが便利だと思う、僕がDIYで超使う文房具、それがスプレーノリと両面テープ。
実際には77を使ったんだけど、再剥離する場合下の55の方がいいと思う。
でこうなった。
真鍮部の穴あけ
作業の順序は非常に重要、切り出す前の安定した状態でできることをなるべくやる。
というわけでここに15mmの穴を開ける。
もちろんボール盤で。基本的に先がネジになったインパクトビットはボール盤で使ってはいけない。
ホムセンにはインパクトビットが多いけどこれを使おう。
そしてこうなる。
真鍮棒がピッタリ入ればOK。
カット前のマーキング
カットしていきたいところだけど、内側の入隅部分はは型紙を貼った状態で綺麗に加工できない。
なので型紙を剥がした後もラインがわかるようにカッターでマーキングする。
内側のRの部分までは切り込まない。直線部分だけマーキング。
こうなる。
切り出し
切り出しにはバンドソーを使う。
ジグソーでやれるか?といわれるとどうかな。
オークはめっちゃ硬いし、今回みたいな細かいパーツは特にバンドソーが向いてると思う。
バンドソーはジグソーのような往復ではなく一方通行なので、時間あたりのカット量は倍以上と言ってもいい。
なおかつ材料が持ち上がったりしないんで、切削工具の中では飛び抜けて安定しているほうだと思う。
個人的にジグソーが必要になったことはほぼない。
僕が使ってる京セラ(リョービ)TBS-80はジャンル内でも格安な上に、速度調整ができるので今回は真鍮のカットにも活躍してくれた。
4万以上するものでもこの機能がないものが多く、それだと金属の切断はできない。
なかったら結構きつかった。
コスパ良すぎるから下の記事も見て欲しい。
リョービ 卓上バンドソーTBS-80【レビュー&評価】他DIYモデルとの比較
リョービのバンドソーTBS-80を買って結構使ったのでレビューしたい。 木工用のバンドソーとは文字通りバンド状になったノコ刃が回り続けること ...
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カットが終わればこんな感じ、ラインぴったりではなく1mm前後は開けた方がいい。
これは結構攻めた方。
外側の加工
バンドソーの曲線カットの相棒はやっぱりディスクサンダー。
僕の曲線造形の主力は、トリマー、バンドソー、そしてディスクサンダーだ(スピンドルサンダーも欲しい)。
DIYでパーフェクトな曲線を加工するための方法と3種の神器(電動工具)
たとえば家具を作ろうと思えば、あこがれの名作あれニトリであれお手本になる所はめっちゃある。 どれも素人には実現不可能と思える造形で溢れている ...
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ここで使ってるのはプロクソンのDS250。
知る限り手の届く価格で他に代替できるものがない。安いベルト付きディスクサンダーとの違いは盤面の構造でまったくの別物。
ここでは詳しく述べないので詳細は以下の記事で。
【レビュー】プロクソン ディスクサンダーDS250【唯一無二】
これはオタク専用ディスクサンダー。0.1mmのスキマを見て心神喪失状態に陥ったり、1日50回くらい「完璧」って言葉を使ってしまう、ちょっとア ...
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この辺は細やかな曲線ディティールを作るときになくてはならない3種の神器といっても良い。(補佐役が両面テープとスプレーのり)
見ての通りバンドソーで切り残した余白をこいつが全て整えてくれる。
この後、思いつきのノブ作りでも大活躍してくれた。
カットラインに対して完璧で外側は完成系に到達。
しかし内側は加工できない。
スピンドルサンダーがあればと思うけどそれはまた今度作る。
今回はトリマーを使う。
内側の加工
とりあえず型紙を剥がす。
カッターでマーキングしていたので内側のカットラインはまだ判別可能。
ここで使うのは「トリマーによる倣い加工」。
型を使って正確に加工する技術で、詳しくは下にまとめてある。参考までに使ってるトリマはこれ。
【2021.12更新】倣い(ならい)加工というコピペ技術【トリマーで何ができる?その2】
ここではトリマーの超重要技術である「倣い加工(ならいかこう)」について説明してみようと思う。 その1では、基本技能に近い例を紹介した。ちょっ ...
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カットしたいラインに対して直線の出たベニヤ板(ここでは5.5mm)を両面テープで貼り付ける。
でもそれだと安定感が足りないので、下のように余った材料(同じ厚み)を使う。
ここで行うビットは写真右上の根元ベアリングビット。
本当は手に持ってる方の先っぽベアリングタイプの方が失敗しにくいので、そっちもしくは両側についてるやつをお勧めする。
なぜかは上の記事で解説している。
そのスパイラルのベアリングビットどこで買ったんだよって思うかもしれないけど、AliExpressで2,500円くらいで買った。
6mmエンドミルは日本でも安く買えるけど12.7mmは普通買えない、AliExとアメリカAmazonを視野に入れればDIYの選択肢は10倍くらいになる。
まあ今回は内側のRは12.7mmの刃でカットすることを想定しているので、別に普通のストレートビットでも12.7mmならば問題はない。
というわけで材料をさらにしっかり固定して、トリマで加工していく。
するとこうなった。
完璧。
続いて真鍮の加工。
真鍮穴あけ
真鍮に穴あけ位置とカットラインを油性マジックで入れる。
安定させるためにV字ミゾを掘ったベニヤを用意した。写真右のガイドに当てて使うため、溝と当たる面を並行にしてある。
ここでボール盤のセンターを丸棒のセンターに合わせたいんだけど、これを人間の感覚でやると非常に難しい。なので宇宙の法則に従って自動で行いたい。
いいものはないかと探したところ、蝶ボルトがあった。これをボール盤に装着する。
そして丸棒に打ち下ろす。
不思議な力で真鍮の丸棒が蝶ボルトのセンターに誘導された。
蝶ボルトのセンターはボール盤のセンター、蝶ボルトをドリルに交換すればセンターに穴が開くはず。
(蝶ボルトの耳が歪んでないか正確か、その辺は回したりいろいろして確認した)
ひとまずこの位置を記憶するためにフェンスを固定した。ほんと作ってよかった。
あとは下のように抑えをいれて穴を開ける。
ポンチがわりの2mmで凹ましてから、6.3mmと開けた。
本当はセンタードリルを使うべきとYouTubeの方で指摘された。
たしかに2mmだと細すぎて先端がすこし踊る感じがあったので、軸の太いセンタードリルあった方がいいかも。
(ただ短いので可動域の狭いボール盤だと、盤面を上げる必要が出て設定やり直しの危険性もある)
貫通後、M6ボルトを挿してみたがほぼセンターに入っている感じだった。
真鍮のカット
台座に固定したままバンドソーでカット。それだけ。
しかしこの作業は問題点がある。
まず真鍮15mmというのは、このTBS-80公式の非鉄金属カットの目安5mmに対して大幅なキャパオーバーだ。
しかもそこに24mmの針葉樹合板がさらなる負荷をかける。
切った感覚としてはまさに無理やりって感じ。高負荷で止まる、再起動を繰り返し、1カット数分かけてだましだまし切った。
実に良くない、でも切れたことに感謝。
せめて9mmのファルカタ合板なんかを下敷きに使えばもっとマシだっただろう。
しかし切断面は思ったより綺麗。
これをまたディスクサンダーで整える。
バンドソー→ディスクサンダーは勝利の方程式。
短くて安定感がよくなかったけど、なんの工夫もなく削るのみ。
それでも良い加工面が得られた。
真鍮は完成。
木部に扇形の穴あけ
ここに鉛筆で書いたような扇形の穴を開けないといけない。
これは最初に書いたように、小難しいことは考えず、挟みたいものを挟んだ状態で開けた穴が正しい。
なので15mmと45mmを挟んで開けていく。
まずドリルが真鍮と接触しない位置に固定。
真鍮をどけて穴あけ。
2つの最大角度で穴を開け、その間の中途半端なところにも何発か適当に穴を掘るとこうなる。
その後は手ノミと棒やすりで適当に削ればこんな感じ。
M6ボルトを突っ込んで許せる程度にチャカチャカ動けばオッケー。
ノブをつくる(ノブナット)
この貫通穴のノブ、なんか難しそうに見えるかもしれないけど、非常に簡単な方法でかなり可愛く作れたから満足してる。
まずはこんな型紙を用意した。
んで木に貼って15mmの穴を開けた。
貫通してないのはあとで裏から削るからいいだろうって考え、貫通させても問題ない。
真ん中の穴は2段穴になっている。表はM6の通るφ6mmで、裏側は鬼目ナットの下穴としてφ10mm。
続いて中心の線にそってバンドソーでカットすると。
こうなる(荒すぎ)。
次にディスクサンダーで整えれば。
こうなる。
ここでM6鬼目ナットを仕込むんだけど、ここは鬼門となりうる。
上に下穴としてφ10mmと書いたけど、参考下穴径は8.7〜9.0mm。
でもオークの硬さは尋常ではない。それで入るわけがないから端材で事前検証した結果10mmでやった。
それでも限界ギリギリなので、いちいち鬼目を使わずに、ボンドをつけた普通のナットをカチこむくらいにした方がいいかもしれない。
とりあえずこれでボルトが装着できるようになった。
ここからがポイント。ドリルに装着してこんなことをする。
だんだん円錐状になっていって楽しい。
当てる角度でもちろん形が変わるけどその辺はなんとなく。
それでもほぼ同じでいい感じのノブナットが完成。
もちろん15mmで穴を開けたのは15mmの真鍮棒にペーパーを巻いて研磨するため。
他のパーツも#240で研磨する。
塗装(オイルフィニッシュ)
広葉樹にはいつもアルドボスを使うけど今回は使用量も少ないし、無駄にめっちゃいいやつを使ってしまった。
オイルフィニッシュの細かい話は下にまとめてあるので省く。選定の基準なんかも派生記事に書いてる。
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ワックスの塗りかたと同様に、オイルフィニッシュに絶対的な方法というのは存在しない。 自分の求める仕上げレベルや、材料なんかによっても変わって ...
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思った以上に美しさを増した。
ただの道具に過分な装飾は不要、でも無駄のないシンプルな設計だと思う。
ボルトナットも真鍮にしたらよかったのにって思うけどそれは無駄金かな。
完成と組み立て(動画)
組み立てればこんな感じ。
なんだかキュートすぎたので撮影しまくってしまった。
制作の過程は動画のほうがわかりやすいので参考にされたし。解説も基本的に全部入っている。